二次会はカラオケで
卒業して以来、初めて開かれた同窓会。私たちが高校を卒業してから五年の月日が経っていた。
久しぶりに集まったクラスメイトたちは、当時とあまり変わっていないように見えた。顔を合わせれば、すぐに互いの名前が出てくる。あれから五年も会っていなかったなんて信じられないくらいだ。
皆、とっくに成人していたので、同窓会ではアルコールも加わり、大いにはしゃぎ、思い出話に花を咲かせた。イジメとか無縁だった仲のいいクラスで、どうしてこれまで、こうやって集まらなかったのか不思議なくらいだ。
それでも、それぞれの近況をあれこれ聞いてみると、意外とみんな、変わったんだな、と思う。五年という歳月を考えれば、それも当り前か。大学に進学した人は卒業して就職しているし――もちろん、まだ卒業できていない人も、まだ就職していない人もいるが――、すでに結婚して新しい家庭を築いている人もいる。
中でも私が驚いたのは、ミカが結婚して、すでに赤ちゃんまで産んでいるということだ。そうなってもおかしくない年齢になったのだから当たり前の話なのだが、こんな日が来るなんて、卒業した五年前にはまったく考えもしなかった。
未だに定職にも就かず、フリーターみたいなことをしている私は、すっかり社会人として立派になったみんなに置いてけぼりにされたような気分だった。けど、そんなのは私の勝手な思い込みだろう。アパレル・メーカーで働いているって言ったら、何人かの女の子にうらやましがられた。私も今の仕事が好きだ。出来ればこの先も、そっち方面で働きたいと思っている。
一次会に出席したのは、クラスのほとんどの人たちだった。予定していた二時間は瞬く間に過ぎ、またの再会を誓い合って、それぞれが二次会へと散って行く。
私は親しかったマユミとミカ、それに何人かの男子を含んだ九名で二次会の定番であるカラオケボックスへとなだれ込んだ。
「さあ、今日は朝まで歌うぞぉ!」
クラスでも一番の盛り上げ役であるダイゴがマイクを握って叫んだ。イェーイ、と私たちは昔に戻ったみたいにノリで応じる。そのままダイゴは、真っ先に入れた景気づけの一曲目を歌い始めた。
どういうわけか、私たちが次々と入力した歌は懐かしい曲が多かった。私たちが高校生だった頃に流行った曲がほとんどだ。そのため、誰かが歌っていると、皆が自然と口ずさむ。昔はよくこうやって、放課後とかに連れ立っては歌ったっけ。結構、今でも歌詞を憶えているものだなって、マユミたちと顔を見合わせながら懐かしく歌った。
私を含め、それぞれが一曲ずつを歌い、最後にゴローの順番が回って来た。昔から目立ちたがり屋な性格なのだが、歌いたい曲を探すのに手間取ってしまったらしい。やっと目的の曲を探し当ててリモコンに入力し、マイクを握った。
他の人の曲まで一緒に歌ったせいで、早くも喉がカラカラになった私は、カシスオレンジを飲みながら、モニターに映った曲名を見た。――『Burning Heart』。はて、知らない曲だけど。
前奏が始まった。ジャーン、という耳をつんざくような大音量。どうやらロックらしい。でも、聴いたことがない曲だった。こう見えても音楽好きな私は、日本人アーティストの曲なら網羅しているつもりだったのだけれど。
私は隣にいるマユミに、「この曲、知ってる?」と口パクで尋ねてみた。ところが、マユミはかぶりを振る。他の人たちの顔を見渡すと、全員、呆気に取られた様子だ。みんなも私同様に知らない曲らしい。
歌詞は日本語がメインだった。どうやら日本の曲であるのは間違いないらしい。歌っているゴローはこの曲を知っているのか――当たり前か、自分で選曲したんだし――、立ち上がって、一人で熱唱している。でも、私は聴いたこともない曲なので、それがうまいのかヘタなのか判断しかねた。
私たちは手拍子のひとつも叩けないまま、ゴローの熱唱を聴き終えた。
歌い終えたゴローは自分で満足のいくデキだと思ったのか、一人で悦に入った様子でソファへ腰を下ろし、泡がとっくになくなった生ビールを一気に飲み干す。
――あの~ぉ、カラオケのマシンに表示された点数は六十二点なんですけど。
「ねえ、ゴロー。今の誰の曲?」
私はどうしても気になり、ゴローに尋ねてみた。
すると途端に睨むような目つきになって、
「オレの曲だよ!」
と噛みつくように答えた。
そう言えば、ゴローにはまだ聞いてなかったっけ。今、何をやっているのかを。
クラスメイトの誰も知らない、売れないロックバンドのボーカルとしてデビューしたゴローは、不機嫌そうに空になったビールジョッキをテーブルの上にドスンと置いた。